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借金大国ニッポンをかすませる国家破産のリスク――世界の債務額1京円の衝撃

六辻彰二国際政治学者
(写真:イメージマート)
  • 世界各国の抱える公的債務は92兆ドルを超え、コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに債務不履行(デフォルト)に陥る国も増えている。
  • その多くは途上国・貧困国で、これらの抱える借金は金額では先進国に及ばないにもかかわらず、経済に占める負担は大きい。
  • これらの国で返済困難なほど借金が膨れ上がった原因には、その計画性の乏しさだけでなく、過剰な資金が海外から流入したことがある。

 コロナ禍やウクライナ戦争、急激なインフレや地球温暖化などを背景に世界各国の債務は急速に増え、1京円を超えたとみられる。国家破産のリスクが広がることは、地政学的にも大きなインパクトを秘めている。

世界のなかの日本の借金

 日本の公的債務、いわゆる「国の借金」は昨年段階で11兆ドルを超えた。国連のデータによると、その規模はGDPの2倍以上、261%に当たり、これは世界一の水準だ。

 この膨大な借金には、予算不足を赤字国債でまかなう数十年の習慣に加えて、少子高齢化や法人税徴収の減少といった構造的な要因がある。

 ただし、日本の借金は大きな問題であるものの、世界全体からみると‘借金大国ニッポン’は以前ほど目立たなくなっている。

 国連によると世界各国の公的債務は2022年に合計92兆ドル、現在のレートにして1京円にのぼった(民間企業や家庭のものを含めると305兆ドルとも推計されるが、以下では公的債務に話を限定する)。

 この20年間で世界のGDPは約3倍に増えたが、その間に各国の公的債務は5倍になった。

 それにともない、世界全体の公的債務に占める日本の割合は2012年には23%だったが、10年後の2022年には12%程度にまで下がった。この間、日本の公的債務額はほぼ横ばいで大きく変化していない。

 つまり、良くも悪くも借金体質にあまり変化がない日本と対照的に、急速に債務が膨らむケースが目立つのである。

債務額で日本の3倍のアメリカ

 とりわけ先進国は、世界全体の公的債務の約7割を占める。そのなかでもアメリカでは急増していて、10年前には日本とあまり差がなかった公的債務額が、2022年には日本の3倍近い約31兆ドルに膨れ上がっている

 特にこの数年、コロナ禍以来の医療・衛生予算の拡大に加えて、温室効果ガス排出を実質ゼロにするための産業育成と公共事業(グリーン・ニューディール)、増加する自然災害への対策と被災地への支援、さらに合計750億ドル以上のウクライナ支援などが政府支出を増やしてきた。

 その負担は今年6月、アメリカを債務不履行(デフォルト)の淵にまで追いやった。

 急激に増える支出をまかなうため国債発行量が増えるにつれ、議会が定める債務上限(シーリング)に迫り、緊縮財政を求める共和党が多数派を占める議会下院とバイデン政権の対立が6月の危機を招いたのだ。

 それでもアメリカの場合、GDPに占める公的債務の割合では日本より低い121%程度である。

 日本には良くも悪くもシーリングがなく、これが経済規模に占める債務の割合でアメリカより高くてもデフォルトになりにくい一因と言える。

 アメリカでは最終的に歳出削減努力を前提に債務上限の一時停止でバイデン政権と共和党が合意したためデフォルトは回避されたが、歳出過多の状況に大きな変化はない。

Gサウスに広がるデフォルトの波

 アメリカに次ぐのが中国で、その公的債務額は2022年段階で約14兆ドルにのぼった。中国の公的債務額はこの10年間で約4倍に急増し、日本を上回った。

 連邦政府の予算が膨らんだ結果、公的債務が急増したのがアメリカとすると、中国の場合は中央政府より地方政府の債務の方が問題になりやすい。地方政府はインフラ建設やコロナ対策の主体として住民生活に深く関わっているからだ。

 カーネギー国際平和財団のマイケル・ペティス上級研究員は、米中が借金体質を強めた共通の要因として、両国における格差の拡大をあげる。とりわけ2008年のリーマンショック後、失業などによる政治的不満を和らげ、国内需要を高めるために公共投資を増やした点で共通する。

 IMF(国際通貨基金)は中国の地方政府が抱える債務を総額約9兆ドルと試算する。中国政府は8月初旬、救済に乗り出す方針を示した。

 ただし、それでも中国では今のところデフォルトの兆候は確認されていない。むしろ、デフォルトの現実味があるのは、規模の小さい途上国・新興国だ。

 実際、2020年以降、すでにレバノン、スリランカ、ザンビア、ガーナがデフォルトに陥った他、エジプト、パキスタン、マラウィ、エルサルバドルなどがIMFなどと債務返済について協議を行なっている。

デフォルトに陥りやすい国とは

 国連報告によると、世界の公的債務のうち途上国・新興国(グローバルサウス)のものは約30%に過ぎず、しかもその約70%を中国、インド、ブラジルが占めている。そのため、すでにデフォルトした国やその淵にある国が抱える債務の規模は日米中と比べてはるかに小さい

 それにもかかわらず、これらの国がデフォルトの危機に直面する根本的な原因は、収入と比べた借金の比率の高さにある。

 債務の問題では金額そのものよりむしろ「返済できる借金なのか」が問題になる。

 すでにデフォルトに陥った国やその淵にある国の借金は、たとえ大国と比べて金額が小さくても、GDPと同程度の公的債務を抱えている国も珍しくない

 ただし、GDPに占める債務の割合だけで「破産しやすさ」を判定することも難しい。この指標だけで測るなら、この値が途上国・新興国より高い先進国、とりわけ261%に及ぶ日本はとっくにデフォルトに陥っていてもおかしくない。

 そこで重要なのが、海外からの借入の多さである。

海外からの借入が持つリスク

 日本の場合、国債のほとんどを国内の投資家が購入している。特に日本銀行は長期にわたる買い入れで国債の45%を保有している。

 日銀による国債買い入れは金融政策と財政政策の境目をグレーにするもので、中央銀行の独立という意味で疑問もあるが、良くも悪くも資金が結局日本のなかを循環しているといえる。

 また、中国の場合、GDPに占める海外からの公的債務の割合は国連のデータによると2%程度で、やはり海外からの借入は少ない。

 これに対して、もともと所得水準の低い部類の途上国ほど、公的債務に占める海外資金の割合が高い

 すでにデフォルトした国の多くは、同程度の所得水準の国よりこの点で海外依存の度合いが強く、なかにはレバノンのように100%を超える国さえある。

 経済規模の小さい国ほど、社会的信用に乏しくなりやすく、借り換えなどが難しく、債務に耐える力は弱くなりやすいが、その返済の負担は国際的な変動によってさらに大きくなった。

 海外からの借入のほとんどはドル建てである。

 コロナ禍とウクライナ侵攻によって食糧やエネルギー価格が上昇したことで、多くの国では貿易収支が悪化した。外貨不足は返済負担を大きくした。

 さらにアメリカの金利引き下げもあって2021年後半から段階的にドル高が進み、ウクライナ侵攻が始まった昨年2月頃からはこれが加速した。ほとんどの途上国・新興国の通貨の下落は、ドル建て債務の返済負担をさらに大きくしたのである。

なぜ海外からの借入は増えたか

 ではなぜ、これらの国は海外からの借入を増やしてきたのか。

 デフォルトの危機に直面する国の多くは、海外からの融資を国内のインフラ建設や産業支援に充ててきた。コロナ禍以前の10数年間、途上国・新興国の多くは好景気に沸いていたが、そのかなりの部分が、外部からの投資だけでなく、融資でまかなわれていたのだ。

 少なくとも結果的に、計画性の乏しい借入だったことは間違いない。

 ただし、その一方で、危うい借り手のリスクが軽視されたこともまた確かだ。

 デフォルトに陥った国だけでなく、多くの途上国・新興国でこの10数年の間に海外への公的債務が増えたのは、大きく二つの原因がある。

 第一に、大国間のレースだ。中国が台頭し、融資に基づくインフラ建設で各国に勢力を広げるにつれ、先進国もこれに対抗して貸付を増やした。大国が競って、いわば気前よく貸し付けたことが、途上国・新興国のリスク意識を以前より低下させたといえる。

 スリランカの例をあげよう。同国政府の統計によると、この国が抱える公的債務のうち中国のものは約47億ドルを占める。これに対して、日本のものは約27億ドルだが、日本とアメリカがそれぞれ主導権を握るアジア開発銀行と世界銀行からそれぞれ54億ドル、36億ドル、さらにインドからも10億ドルの借入がある。

 インド亜大陸の南端に浮かび、インド洋の海上ルートの要衝に位置する小国スリランカは大国の覇権争いの舞台となり、このことが過剰な借入をもたらす一因になったのだ。デフォルトの危機に直面する国は、多かれ少なかれ同じような状況にある。

 途上国ではないが、アメリカの国債もやはり大国のレースの対象になってきた。米国債の約1/4を占める7兆ドル程度は海外が所有しているが、最大の買い手は日本(1兆ドル以上)であり、第2位は中国(8000億ドル以上)だ。

 日中は立場こそ違っても、アメリカ政府への影響力を確保するため、率先して米国債を買ってきた点では共通する。

「安いマネー」の終わり

 そして第二に、これに拍車をかけたのが膨大な民間資金だ。

 中南米やアフリカの多くの国は1980年代にもデフォルトの危機に直面したが、この頃は先進国やIMFをはじめ公的な借入がほとんどだった。ところが現代では金融機関による貸付が途上国の債務のかなりの部分を占める。

 例えばスリランカの場合、海外の銀行などからの借入は147億ドルにのぼり、公的債務の42%を占める。これは中国や先進国からの融資を上回る水準だ。

 スリランカだけではない。国連によると、途上国・新興国の抱える公的債務の6割以上は民間資金だ

 こうした状況は、膨大な資金が市場に出回るなかで生まれた。

 2008年のリーマンショックの後、先進国や新興国が集まるG20では世界経済を下支えするため、伸び代が期待されていた新興国への資金注入を増やすことが合意された。これと並行してアメリカは超低金利政策を導入し、有り余るほどのドルが世界中に拡散した。

経営破綻直後のリーマンブラザーズ本社(2008.9.15)。この後、金融危機に瀕した世界を立て直すため、主要国が集まったG20では、主に新興国への資金投入による景気の下支えが合意された。
経営破綻直後のリーマンブラザーズ本社(2008.9.15)。この後、金融危機に瀕した世界を立て直すため、主要国が集まったG20では、主に新興国への資金投入による景気の下支えが合意された。写真:ロイター/アフロ

 このなかで投資だけでなく融資も急激に増えたが、金利の低さゆえに借り手も貸し手もリスク意識が低いまま、新興国を中心に資金が投入された

 いわゆる安いマネーの過剰流入は、表面的な景気の良さと「成長するグローバルサウス」のイメージを増幅させたものの、コロナ禍とウクライナ侵攻後の経済収縮とアメリカの金利引き上げをきっかけに急速に重荷になったのである。

日本にとってのリスク

 デフォルトに直面する国では人々の生活も悪化しており、例えばガーナのインフレ率は42%を超えている。

 債務危機の拡散はすでに国際的な議論の対象になっている。7月にパリで開催された世界金融をめぐる国際会議では、IMFが1兆ドルを新たに調達することや、世界銀行が地球温暖化などの影響で経済に打撃を受けている国からの返済を猶予すること、さらにデフォルトに陥ったザンビアの63億ドル分の債務返済のリスケジュールなどが合意された

 その一方で、返済返済の免除はほとんど議論になっておらず、時間がかかっても返済させることを前提にしている。IMFなどの新たな支援は、まず経済を立て直し、それから返済させることが目的だ。

 貸付のかなりの部分を民間資金が占めていることもあって、債務免除は難しい。

 貸した側からすれば、返済は当然だろう。IMFや世銀だけでなく、日中をはじめ多くの貸し手は債務免除について触れていない。

 しかし、1980年代の中南米、アフリカの債務危機の場合、やはりIMFや世界銀行は「支援をむしろ増やすことで返済を可能にする」アプローチをとったが、結果的に1990年代半ばにIMFや世界銀行は債務を帳消しにせざるを得なくなった。デフォルトに陥った国の経済再建は容易でなく、その間の膨大な貸付は結局ムダになったのだ。

 つまり、ただ「返せ」と言っても無意味なのであり、デフォルトに直面する国が債務返済できるか状態にもっていけるかが、借り手の課題になっているのだ。

 借金大国とはいえ日本がすぐにデフォルトに陥る兆候は確認されない。

 その一方で、国内に世界屈指の債務を抱える日本は、国際的には指折りの債権者だ。

 その意味で、世界に広がる債務危機で日本自身が破綻する可能性は低いとしても、決して無縁ではないのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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